佐賀のほっこり事件

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こういうことって珍しいことなのか。てっきり大金持ちが何億円も寄付してるものかと思ってた。

16000円。これきっと子供、それも高校生なんじゃないかな。例えばクラスメートが新聞配達をしていて、いつもそれを見ているとか。という小説を書いて見た。

 

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外は大雨。iphoneが朝を知らせるジムノペディを奏で始める直前に目が覚めた。起き上がり窓を見ると、こちらの定刻通りに自転車が私の家の前に止まり、配達員のあいつがビニール袋に入れた新聞をポストに入れた。雨合羽のフードを目深に被っていて、顔はよく見えないが今日もきっと無表情。

 

あいつが新聞配達を始めたのは高校に上がった直後からだった。中学の時、両親が離婚し、幼い妹とあいつは母親と一緒にワンルームの狭いアパートに住み始めた。田舎町では噂はすぐに町中に知れ渡る。が、周りも似たような家庭が多いので、それで特別扱いされることはない。

特別ではないけど、本人にとっては普通のことではない。まず幼稚園の頃から続けていた野球部をあいつは辞めた。いつも部活に行っている時間にスーパーで妹の手を引いているあいつをよく見るようになった。母親が働き始め、慣れない家事をせざるを得ない状況らしい。

家庭科で卵焼きをマルコゲにしていたあいつの苦笑いを思い出す。その頃はよく指に絆創膏を巻いていたあいつの手。運動会のフォークダンスの時もそうだった。

 

高校に上がってから、妹も大きくなり、ようやく手が離れたと言っていた。これでやっと自分の時間が持てるね。きっと大好きな野球部に入るんだろう。野球選手になるのが夢だと言っていた。だけど、あいつは新聞配達のバイトを始めた。

野球選手なんて可能性の低いことよりも、妹や自分の学費を稼ぐことが将来を見据えると、費用対効果が高いと判断した、らしい。高校の部活なんて、プロになる為のものじゃない。思い出を作る為のものだ、そんな気持ちで生きている私がすごく惨めで馬鹿に見えた。

 

すごく仲が良いとは言えないけど、私の両親は私たち子供のことを最も大事に考えてくれる。一度だけ平日の父親を外で見たことがある。家では見せたことがない暗い表情で、別人かと思った。母もみんなが寝静まった夜中に一人で泣いているのを見たことがある。お父さんとお母さんは自由になりたいんだと思う。でも大人はそう簡単に自由にはなれない。

あいつもきっと大人なんだ。両親が大人になれなかった分、あいつが早く大人にならなきゃいけなかった。

 

新聞を満載にした自転車は雨の中、フラフラと頼りなげに遠ざかって行く。毎月2000円貰っている私の小遣い。いつも余らせている。けどあいつは幼なじみでも、女の私からなんて絶対に受け取らないだろう。でも届けたい。あいつに味方がいることを教えてあげたい。