東芝の西田元社長

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僕が東芝に入った時の社長がこの人だった。突然の死に驚いている。

入社当時、社会人として右も左も分からない状態で、この人の存在というのは圧倒的だった。直接本人に会ったのは入社式だけだったにも関わらず神様のように僕は捉えていた。

 

西田語録のようなものを研修の度に教わった。「これからの企業に必要なのは応変力。変化に対応する力だ」とか「イノベーション乗数効果」とか、どれも真っ当なことを言っていた。「TOSHIBA Leading Innovation」っていうのが確かこの人が社長の時にできたスローガンだったと思うのだが、何ともかっこよくて、東芝で働いている時は、このスローガンを時折思い出して、誇らしい気持ちになった。京セラには京セラフィロソフィーというものが根付いているらしいが、東芝ではそれが西田フィロソフィーだった。どの会社でもそうだと思うが、会社では出世した人が正解だ。この人を基準に僕の社会人としての価値観は形成されたと言っても過言ではない。

社長が西田さんから佐々木さんに、佐々木さんから田中さんに変わった後も同じだった。社長によらず、西田さんが一番偉いし、西田さんの考えが社内には根付いていたように思う。

 

それが、不正会計による大革命。最初、僕はこの不正会計の全ての原因は佐々木さんにあると思っていた。佐々木さんの時代は市況が悪かったこともあるが、コストカットばかりだった。それも前向きに効率化を目指してのコストカットではない。やらなくていいことはやらないという感じのコストカットだ。当たり前やん?って思うかもしれないが、やらなくていいと言ってしまうと大概の改善活動はやらなくていいことになる。

将来モノになるかも知れないことを含め金のかかることはとにかくさせてもらえなかった。残るのは雲のように捉えどころのない抽象的な活動か、もしくは客先対応などの利益の為に急ぎでやらなければならないことだけ。この人の元でいつの間にか、変化とリスクを極端に恐れる企業文化が醸成されたように感じる。モノづくりの企業として、設計過程でリスクのあるものは当然出てくる。それを「とりあえず作ってみよう」という気概がなくなり、ひたすら大丈夫と言える根拠を考える作業が多かったように思う。その結果としてモノづくりの品位は上がるし、完成度も上がる。しかし、マージンを取り過ぎて肝心の付加価値がついてこない。

だから僕の中で佐々木さんはロクでもない人だと思ってた。実際西田さんも嫌ってた。 

 

しかし、ウェスティングハウスの買収はどう考えても西田さんの責任。不正会計も東芝崩壊の第一章に過ぎず、不正会計で本当に隠したかったのはウェスティングハウスの失敗だったというのだから、西田さんに経営者としての落ち度があった点は誰がどう見ても明らか。西田さんはウェスティングハウスの買収時点で、原発の今後の展望をかなり良いものとみており、それが地震で崩壊したのは全く予想できなかったと。でもね、もともと「企業には変化に対応する力が必要だ」と言っていた人が何でこんなことを言うんだろう。風向きが悪ければ、どうにかするのが経営者だ。それは何もごり押しで原発を売るということではなく、撤退するという手段でもいい。少なくとも、むちゃくちゃ楽観的な予測を継続することではないでしょう。

西田さん好きの僕もさすがに自分の間違いに気づいた。価値観が180度変わった事件だったと言っていい。このあたりから東芝の上司の言うことが世間一般で見て本当に正しいことなのだろうか、とすら思った。だって、東芝の基準で出世したっていうのはイコール西田さんの考えに沿っているということなんだから。

 

ここらへんで結論らしきものを書きたいところだが、何も思い浮かばない。とりあえず、西田さんにお悔やみを申し上げます。あなたはミスター東芝でした。あなたがいなければ、私は東芝には入っていなかった。今はまったく尊敬できない人になりましたが、東芝に入って色々と経験させてもらったことは、西田さんとは別次元の話で後悔していないし、経験させてもらって心の底から良かったと思っている。だから、そうした場にめぐり合わせてくれたことには凄く感謝している。