[読書の感想]殺戮にいたる病
- 作者: 我孫子武丸
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2017/10/13
- メディア: 文庫
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永遠の愛をつかみたいと男は願った―。東京の繁華街で次々と猟奇的殺人を重ねるサイコ・キラーが出現した。犯人の名前は、蒲生稔!くり返される凌辱の果ての惨殺。冒頭から身も凍るラストシーンまで恐るべき殺人者の行動と魂の軌跡をたどり、とらえようのない時代の悪夢と闇を鮮烈無比に抉る衝撃のホラー。
各所で絶賛されていた小説なのだが、途中から父親が犯人なんじゃないか?と、オチを予想出来てしまった。
例えば、家出少女から言われた「オジン」という台詞や、風俗の呼び込みで「社長さん」と声を掛けられた点。
20歳の青年にしては違和感が大きく、主人公の年齢に錯視がある予感がした。
決定的だったのは、自宅で狂気的な散々自慰をしているのにも関わらず、雅子のゴミ箱漁りではその痕跡が全く見つからなかったこと。
周りが見えなくなっている犯人の行う行動が、雅子の疑惑的な視線を交わしきれるとは到底思えない。
犯人が本当は誰なのかを考えた時に、薄い印象の人物だろうと思いあたり、それまで名前が明示されない夫のことが怪しいと思った。
しかし、真実は分かったが、この小説の叙述トリックには気づけなかった。
例えば、雅子視点で夫の名前。
夫=稔というのが、本書の根幹で緻密に隠されているのだが、それでいて「稔」という名前は何度も登場しているのだ!
文章の表現の仕方ひとつで巧妙に隠し、稔という名前が出てくる時にはそれが息子を指すかのように巧みに誘導している。
ここに最後まで気付かず、私は父親と息子が同じ名前なんだと思ってた。
こんな書き方をする小説にはこれまで出会ったことが無かったが、読み終えて見れば、これはこれで気持ちのいい騙され感だと思った。
それからラストの終わり方。
たったの三行程度の新聞記事で全ての謎を説明した後、物語はあっさりと幕を閉じる。
かっこ良すぎる小説である。