我が家のヒミツ

 

我が家のヒミツ (集英社文庫)

我が家のヒミツ (集英社文庫)

 

奥田英朗は「我が家の問題」を読んでから好きになった作家。本作も文庫化されて書店に並んでいるのを見て真っ先に購入した。

本作は「我が家の問題」と同じ短編集。家族関係が共通したテーマになっているが、自分が34歳既婚だからか、夫婦間の愛情がメインになっているように思えた。いまいち…と感じる話もないではないが、「手紙に乗せて」と「妻と選挙」はズシンと来た。

手紙に乗せて

主人公は母が亡くなったばかりの若手サラリーマン。父・母・自分・妹の4人家族で同居していたが、精神的支柱であった母が突然亡くなった。とりわけいつも自信に溢れていた父がすっかり元気をなくしており、主人公と妹はそのことにショックを受ける。

この短編で発見だったのは、遺族の感じている景色と周りが見えている景色の違い。僕自身は肉親は健在なのだが、数年前に同期の友達が父を亡くして凄くショックを受けていたことを思い出した。その時、何も応えることが出来なかったなと。

他にも幾度となく葬式に足を運んだ。祖父母はみんな亡くなった。職場の同僚の肉親がなくなったことは数知れず。それから同僚の死も3回あった。

いずれも軽薄な僕なので、社会人としての義理以上のものはなかったが、遺族らは全く違う見方をしていたんだなとこの小説を読みながら思った。

そんな風に思えるのは中年に差し掛かるにつれ、自分の若い頃の残念な行動が、思い出されるからだ。若い頃は痛みが想像が出来ないために、人を傷つけても無頓着なのだ。失敗して落ち込んでいる人を見ても、ただ人間的に弱い人と思うだけ。

でも、自分がオジサンになってみてオジサンも実は物凄く脆いことに気づいた。そして想像以上にたくさんのハンディを背負っていることにも。

自分がそうした立場に立たされて見ると、若い人たちの世間知らずな面を正直悔しいと感じるが、一方で若い頃の自分を顧みて人のことは言えない。

この歯がゆさ、どこにぶつけることも出来ないんです。ただ、同じような経験をした人に理解してもらうことで、人ってものすごく救われるんですよね。だけど、そんな場って滅多に無くて、だから、この小説はそうした傷ついているたくさんの人たちの救いになると思った。

妻と選挙

直木賞作家の主人公の妻が、突然、市議会議員の選挙に立候補すると言い出した。最初は妻の選挙に否定的だった主人公だが、一度言い出したら聞かない妻に反対することができず、自分に面倒はかけないという条件付きで了承する。

一方、主人公は作家として旬をすっかり過ぎており、自分の書きたいことが、社会から求められない現実を目の当たりにしていた。自分自身の仕事の風向きが悪い中で、妻の選挙の状況が芳しくないことを知る。そして、自分がダメな時は妻に輝いてほしいと思い、妻の選挙を応援しようと決心する。

うちも妻が最近、転職活動を始めるようになった。妻はもともと東京でOLをしていたのだが、僕の転職を機に退職して、一時は専業主婦を、そして今は派遣社員として工場の事務をやっている。転職は正社員を目指してのもの。もともと仕事に対して自尊心が高い人なので、自分を活かせる場は派遣という立場ではないと考えたのだと思う。

ところが転職活動は全くもってうまくいかない。専門性の高いスキルは持っているとはいえ、30代半ばという年齢に加え、職場も通勤時間の関係で限定される。さらに、子供がまだ小さいので数年は定時で帰れることが必須。悪条件が重なっている。

正直、まだ早いんじゃないかと最初は思った。子供がもう少し大きくなってからの方がいいんじゃないかと。

しかし、自分が仕事に対して諦めを感じていた時期であり、自分が輝けないのなら妻に輝いてもらいたいという気持ちが最近は出てきて、家事や育児などなるべく転職活動に時間が取れるように応援するようになっている。

この短編は今の自分の境遇と近いので、主人公に素直に共感。サクセスストーリーとなっていた点も良かった。