失ったものと得たもの

技術で社会に貢献すること。これが僕にとって最も重要なことだった。僕の理想とするエンジニア像はまさにそこにあった。しかし、その夢は最初に入社した会社であっさり破られた。組織の都合と嫌味な上司によって。

そこから何度もリベンジをやった。異動願い、転職活動。重い選択を死ぬほど悩んで選んだ末、その全てがうまくいかないまま、現在に至っている。正直、僕は人生にほとほと失望している。こんなに願ったことなのに叶わないなんて。

その埋め合わせのように、僕には良いことがいくつも訪れた。家族と出世と金。その全ては僕が本来必要としていなかったものだった。埋め合わせの為だけに得られたものたちだ。でもそれらがあっても、夢が敗れた事実はずっと心に残ったまま燻っている。

今、手にしたものからすると僕はとてつもなく恵まれた人生なのだろうと思う。訪れた幸せを全て否定する気は全く無い。しかし、僕は自分の人生に全く納得できていない。六畳一間で孤独でも良いからやりたい仕事を好きなだけ出来る人生が歩みたい本当の人生だった。


一方で、同僚の自殺をきっかけに自分が望み通りのキャリアを歩んでいたらどうなっていただろうかと考えた。望み通りに仕事に生きられても、死ななければいけなかった同僚は、もしかしたらもう一人の自分だったのかも知れない。彼の最後に見た景色は、望み通りに仕事が出来たからこその絶望だったのかも知れない。彼と比較して、今、自分が生きているのはうまくいかなかったことがあったからだ。

だからと言って、やりたい仕事が出来なかったモヤモヤが消えることは無い。例え自殺することになっても、そういう人生でもよかったと正直思う。今を全否定するつもりはないが、今の自分は、全く自分の人生には似つかわしくないと思う。こんなに不完全で不器用な人間が、良い給料貰って、偉い立場になって、優しい家族に恵まれるなんて、全く似つかわしくない。